アンチ-ロマンチシズムと文学との幸福な共存を謀ります。当面、「炭鉱のカナリア」になる決意をしました。第二次安倍政権の発足以来、国民は墨を塗られるだろうと予測していましたが、嫌な予感が現実になりつつあります。日本人の心性や「日本国憲法」の問題などを取り上げながら、自分の明日は自分で決めることの大切さを、訴えていきたいと思います。
伊藤整(1905-1969)を鳥に喩えるなら白鳥だと、私はずっと思っていた。
文学作品の受け止め方が年齢とともに変わる、というのは実にありふれた事だが、自分が40歳を過ぎてよく見ると、伊藤整という作家はなんだか、白鳥というよりも『白鳥の湖』のオデット/オディールを懸命に踊っているプリマのようではないか。

白鳥の湖

伊藤が21歳のときに出した最初の詩集『雪明りの路』は、“口語文の自由詩形式”に則って書かれたものである。伊藤自身が30年後に顧みているように、やや「幼稚」であるように感じられる面もあるが、それは「易しい言葉を並べる方法を取った」ことに原因の一つがあるのだろう。

「私は文語体が苦手で、象徴的表現を操れなかった。ただ私は自由詩の粗大さを嫌って、できるだけ圧縮した、無駄のない表現で、散文そのものにならない強さを得ようとして努力した。」
(『若い詩人の肖像』 6「若い詩人の肖像」)

『若い詩人の肖像』には、詩集の出版や発送や批評等のことで、伊藤が心を掻き乱されている様が詳細に書かれている。
詩の表現を自分の心の本当の表現だと信じていた」伊藤には、草野心平の「冬眠」は我慢がならなかったらしい。
「冬眠」の本文は ● という、黒丸1つである。それを、「全然誤魔化しかでたらめで人を驚かすような詩」だと、切って捨てている。
伊藤は、自分が書いた詩の価値を何とか見極めようと神経を尖らせる日々において、批評家としての資質を磨いていったのだろう。
これから世に出そうとしている詩がすでに「流行遅れになりかかって」いることを気にしつつ、「公平に言ってやっぱり自分の詩は悪くない」と思う。
その一方で、丸山薫の「病める庭園」(やめるにわ)を読んで、丸山の方が自分よりも詩が上手いと思い、不安になったりしている。

「丸山薫、こいつだけはオレの予定を狂わせた、と考え、きっとこの男は、痩せて、眼のぎょろぎょろした交際しにくい青年だろうと想像した。」

丸山の「病める庭園」は、百田宗治主宰の同人雑誌『椎の木』創刊号に、伊藤の「馬」と共に掲載された。伊藤が『若い詩人の肖像』に引いているのは、次のような詩だ。

静かな午さがりの庭さきに
父は肥つて風船玉の様に籐椅子に乗つかり
母は半ば老いてその傍に毛糸をば編む
いま春のぎようぎようしも来て啼かない
此の富裕に病んだ懶い風景を
では誰れがさつきから泣かすのだ
オトウサンヲキリコロセ
オカアサンヲキリコロセ

それはつき山の奥に咲いてゐる
黄ろい薔薇の葩びらをむしりとり
又しても泣き濡れて叫ぶ
此処に見えない憂鬱の顫へごゑであつた
オトウサンナンカキリコロセ!
オカアサンナンカキリコロセ!
ミンナキリコロセ!

(丸山薫,「病める庭園」)

伊藤はこの詩に、「題のない詩」や「さびしい来歴」で萩原朔太郎が創始したイメージが使われている、と指摘している。
「鳥の啼き声の擬人法だって、朔太郎の「とうてくう、とうるもう、とうるもう」というのがある。しかし真昼の空しい空虚感とよしきりの啼き声を「オトウサンヲキリコロセ」という言葉で示した効果は鋭かった。私はこの詩を作ったのが自分でないことが残念であった。」


馬の銅像

しかし、伊藤整の「馬」も、決して「悪くない」、素直で強い歌である。

馬よ いくら首を振らうとも
鈍重な車は離れないのだ。
馬よ さうして俯向いてゐても
もう考える事にも飽いたゞらう。
今朝も泥道は長々と続いて
せなかのこはい毛はさか立ち
馬具は古び 馬車追は貧しい。
もう諦めたことも忘れた頃だが
この泥道をたどる時は
ずつと昔の悲しみが少しは心を刺すらしい。
でも峠を登りつめて
青い朝風が谷から吹き上げると、
おまへは昔の
みやびた足なみを思ひ出してか
坂を下るにも何かたのしさうではないか。

(『雪明りの路』)

しかし、考えすぎの伊藤整は、丸山薫が発揮している“直感”によって傷つくのを、怖がっているのかもしれない。

詩の表現以外の言語表現を、私は真実のものと見ていなかった」ということと、「詩の中の感情や、詩の中の判断を日常生活の中に露出すれば、人を傷つけ、自分も傷ついて、この世は住み難くなることを、私は本能的に知っていた。」ということ。(『若い詩人の肖像』 1「海の見える町」)

この両方にまたがってできあがったのが『雪明りの路』なのだろう。

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[2011/08/29 19:30] | 伊藤整をめぐる冒険
[tag] 文学史 詩論 伊藤整 若い詩人の肖像 百田宗治 草野心平 丸山薫
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