アンチ-ロマンチシズムと文学との幸福な共存を謀ります。当面、「炭鉱のカナリア」になる決意をしました。第二次安倍政権の発足以来、国民は墨を塗られるだろうと予測していましたが、嫌な予感が現実になりつつあります。日本人の心性や「日本国憲法」の問題などを取り上げながら、自分の明日は自分で決めることの大切さを、訴えていきたいと思います。
短歌は、仮名にして31文字からなる。
短い……。
私は短く書くのが苦手で、短詩型文学の秀逸なものに出会うと、羨望の余り頭がくらくらする。

たんかはかなにしてさんじゅういちもじからなるみじかいわたしはみじ  (T_T)

ハイ、そこまで。
句読点や記号を除いても、31音節の表現の、なんと短いこと!
その貴重な31音節の、普通だと5音節を、枕詞が占領しているのを見て。
ビミョーだな、と思うこともある。

枕詞とは。
旺文社『古語辞典』(1981年新版)の巻末付録には、こう説明されている。

一定の語の上にかかって、ある種の情緒的な色彩を添えたり、句調を整えたりするのに用いられるが、主想とは直接に意味的な関連のない語である。

意味的には不必要とも思われる“修飾”こそ、創作の本意かも。
でも、31分の5、とはまあ、6分の1。ビミョーな歌も生まれるでしょう。

たまもかる敏馬(みぬめ)を過ぎてなつくさの野嶋が埼に舟近づきぬ
(『万葉集』巻三・250)

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「柿本朝臣人麻呂の羇旅歌八首」の中の一首であるこの歌は、ビミョーなのかどうか、考えても判別できず、焦ってしまう。
‘たまもかる’と‘なつくさの’を合わせて、枕詞だけで3分の1占めてるじゃないか…。
なんだこの歌は? 歌聖・柿本人麻呂…。σ(^_^;)
…と思うのは、現代人が『万葉集』の古代から切断されているためで。
こういう時は、折口信夫の古代研究が頼りになるようだ。

敏馬(みぬめ)とは、折口説によれば、兵庫の和田岬のこと。
野嶋が埼は、淡路の北端、松尾崎(松帆崎)のこと。
後世、「こぬ人をまつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩(もしほ)の身もこがれつつ」(藤原定家『百人一首』)などと詠まれたところ。

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枕詞とは、このように‘元来、地名に冠せられたものだ’と、山本健吉は言う。

土地に国魂(くにたま)が寓るという信仰と、それは不可分だった。普通名詞につけるようになったのは、その流用に過ぎない。それも神聖な事物、祭式にかかわる事物から、一般に及んだ。そうなるとそれは咒詞的効果を忘れて、単に修辞的効果以上の期待を抱かなくなった。
(『詩の自覚の歴史』,1979年,第3章「柿本人麻呂の羈旅歌」)

「たまもかる」の歌は、2つの地名にそれぞれ、本来的な枕詞をつけ、「舟近づきぬ」と結んだだけの、極めて単純な歌である。
山本がいう、国魂(くにたま)とは、‘土地の精霊’のこと。
枕詞は、その精霊に訴えかける‘強い咒力が籠められた’ものだったそうだ。
この歌は、‘古代の論理’にかなっているわけだ。
地名や枕詞の呪術的な力といっても、現代人にはピンとこないかもしれない。
それでも、手つかずの自然を前にした時など、‘土地の精霊’というような考え方がリアリティを持つこともあろうか。
私は信仰を持たない人間だが、‘土地の精霊’ということがリアルに感じられる時がある。
例えば、釧路湿原の温根内(おんねない)という名の土地で。
北海道に来たことの、こういう幸福を、いつか記事にしたいものだ。
古拙とか、古風とかいわれることに、ゆったりと心をあずけて。


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古代和歌には意味、内容などの実体的なものを排除し、出来るだけ三十一文字の容器をうつろなものにして、調べそのものに歌の命を托そうとする傾向がある。可能なかぎり意味を消し去ったあとに、歌の気のようなもの、詩の精のようなものが、滾々と湧き出て来てそのうつろの空間を充たす。今日の詩人には、このような虚の世界に嬉戯する心の余裕がない。これはアルカイックな歌の不思議な魅力といってもよい。
(『詩の自覚の歴史』,第3章)

次の歌なども、‘意味のない枕詞の詩的効果を、最大限に発揮した歌’である。

しきたへの袖易(か)へし君たまだれの越野(をちの)に過ぎぬまたも逢はめやも
(『万葉集』巻二・195)

川島皇子の薨去にあたって、妃の泊瀬部皇女(はつせべのひめみこ)に、人麻呂が献じた歌。
皇女の立場に立って詠んだ、人麻呂らしい荘厳スタイルの挽歌である。

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[2012/06/22 10:50] | 古典と現代文学
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2012/06/23(Sat) 07:03:06 |  まとめwoネタ速neo